海の底には、まだ私たちの知らない歴史が眠っている。
2026年10月7日、エジプトのアレクサンドリアで、なんともロマンのある発見が発表された。
海底に沈んだ古代の王宮跡から、「アレクサンドリアの大灯台」の姿が刻まれた青銅の指輪が見つかったのだ。
大灯台といえば、古代世界七不思議の一つ。今は失われた巨大建造物である。
今回は、その指輪が見つかった場所と、海底に眠る古代都市の謎を追ってみよう。
クレオパトラゆかりの王宮地区が、今も海底に眠っている!?
舞台はエジプト北部、地中海に面する都市アレクサンドリア。
紀元前331年にアレクサンドロス大王によって建設されたと伝えられ、後にプトレマイオス朝エジプトの都として栄えた都市だ。
かつて東の港には、ポルトゥス・マグヌス(大港) と呼ばれる広大な港湾区域があった。海沿いに王宮、神殿、船着き場などが集まり、地中海世界の重要な拠点となっていた。
今回の指輪が見つかったのは、その中にあった アンティロドス島。王宮や女神イシスの神殿が存在した島で、クレオパトラの時代の王宮地区と深い関係がある。
ところが現在、この島は海面の下にある。
古代アレクサンドリア王宮地区の生成イメージ。史料から着想した想像図であり、建物の形・規模・配置の忠実な復元ではありません。
フランク・ゴディオ氏が率いるヨーロッパ水中考古学研究所(IEASM)は、1992年からエジプトの考古当局と協力してこの港の調査を進めてきた。
海底からは石造建築の跡、彫像、陶器、硬貨などが見つかっている。
もちろん、豪華な宮殿が建物ごと完全に残っているわけではない。現在見つかるのは、長い時間の中で崩れ、砂や堆積物に覆われた遺構だ。
海底遺跡の生成イメージ。水中で見つかる遺構の種類を説明するための創作図で、実際の配置や保存状態を再現した写真ではありません。
実際の水中発掘写真は、発掘チームの公式プロジェクトページで見ることができる。
今回見つかったのは「世界七不思議」が刻まれた指輪!
今回の発見で注目されたのは、大灯台の図像が刻まれた青銅製の印章指輪だ。
2026年10月7日の発掘チームの発表によれば、大灯台を描いた青銅の印章指輪としては、現在知られている中で初めての例だという。
図像には、西暦2世紀の一部の硬貨に描かれた大灯台と似た特徴があるそうだ。ただし、指輪そのものが2世紀に作られたと確定したわけではない。
大灯台を刻んだ指輪の生成イメージ。発見の主題を伝えるために創作したもので、実物の写真でも精密な復元図でもありません。船や装飾など、絵の細部に史料上の裏づけがあるわけではありません。
実際に発見された指輪の写真は、発掘チームの公式発表で確認できる。興味があれば、ぜひ見比べてみてほしい。
失われた建造物の記憶が、小さな指輪に残っていた。これだけでも十分すごい。
でも、今回の発見にはもう一つ面白いポイントがある。
なぜ灯台の絵が刻まれた指輪が、王宮跡から出てきたのだろう?
もしかすると、王宮には灯台を管理する役所があった?
印章指輪は、身につける装飾品であると同時に、封印などに用いられることもある道具だ。
今回の発掘を率いたゴディオ氏は、この指輪が宮殿跡から発見されたことを重視している。
そして、王宮が政治的な権力の中心だっただけでなく、大灯台の管理を含む行政上の役割を担っていた可能性を指摘した。
王族が暮らす場所のすぐそばで、港の運営を支える人々も仕事をしていたのかもしれない。
こう考えると、古代の都市が急に身近になる。
なお、この指輪の持ち主が灯台の管理官だったと確認されたわけではない。そこは今後の研究に委ねられている。
アレクサンドリアの大灯台は、どれほど巨大だったのか?
指輪に描かれた大灯台は、古代世界七不思議の一つだった。
プトレマイオス朝の時代に建てられたと考えられ、高さは100mを超えていたと推定される。約2300年前に、現代の高層建築にも匹敵する構造物が港にそびえていたことになる。
船乗りたちにとっては港の位置を知る重要な目印であり、アレクサンドリアを象徴する建物でもあった。
大灯台は後世の地震などで大きな被害を受け、当時の建物は現存していない。
だからこそ、当時の姿を伝える硬貨や指輪の図像が貴重な手掛かりになるわけだ。
ただし、ここまで掲載した鳥瞰図や指輪のイラストはあくまで想像図。大灯台も宮殿も、その外観が細部まで確定しているわけではない。
そもそも、なぜ王宮地区は海底に沈んだの?
気になるのは、そんな繁栄した港がなぜ今は海の下にあるのかということ。
発掘チームによる地質・考古学的な研究では、地盤の沈降、海面上昇、地震や高波・津波などの自然現象が、時期を異にしながら関わったと考えられている。
一度の大災害で宮殿が丸ごと海に飲み込まれた、と単純に説明できるものではないらしい。
時間の経過とともに陸と海の境界が変わり、かつて人々が歩いていた場所が、現在はダイバーの調査する遺跡になった。
私たちが普段使っている何気ない道具だって、遠い未来には歴史を読み解く手掛かりになるのかもしれない。
海底には、まだどれほどの歴史が眠っているのだろう
今回見つかったのは、黄金の宝箱でも巨大な石像でもない。
手のひらに収まる、小さな青銅の指輪。
それでも、この発見が失われた大灯台の図像や古代王宮の役割を考えるヒントになった。
海底に埋もれた遺構が少しずつ調査されることで、昔のアレクサンドリアの姿は新しい証拠とともに描き直されていく。
私たちが知っている歴史は、まだほんの一部なのかもしれない。
海の底に次はどんな発見が眠っているのか。考えるだけでワクワクする。
ゆなのひとこと
海底遺跡って、時間が止まった場所みたいだよね😊
かつて人が暮らしていた街や宮殿が、何百年も、何千年もたってから発見される。
今回みたいに小さな指輪から新しい歴史の手掛かりが見つかるのも、考古学の面白いところだと思う。
参考資料
※サムネイルおよび本文の挿絵は創作イメージです。実際の発掘現場、発見品の細部、宮殿や灯台の正確な姿を再現したものではありません。