「AIは敵に回りました」
そんな強い言葉を耳にすると、少しドキッとします。
もちろん、かなり刺激の強い表現です。でも、まったく的外れとも言い切れません。
文章生成、画像生成、コード生成。私たちはすでに、AIを日常的な便利ツールとして使い始めています。その一方で、同じ能力はサイバー攻撃にも使われます。
では、ここで一つ気になる疑問があります。
AIが圧倒的な物量で攻めてきたとき、さらに高性能なAIで守り切れるのでしょうか。
今回はこの問いを軸に、AI時代のサイバーセキュリティを考えてみます。
生成AIで何が変わったのか
サイバー攻撃の自動化自体は、生成AI以前からありました。大量のアクセスを送りつける。既知の弱点を機械的に探す。そうした攻撃は、昔から存在しています。
ただ、生成AIで変わるのはそこから先です。
大きいのは、状況を読んで、次の手を変える能力です。
たとえば、システム構成を読み取り、弱点候補を洗い出し、試した結果を見て別の方法を選ぶ。こうした試行錯誤を、AIが支援したり自動化したりできるようになってきました。
Anthropicは2026年9月、Z.ai(Zhipu AI)のオープンウェイトモデル「GLM-5.3」について、サイバー攻撃に使えるエクスプロイト(脆弱性を突くプログラム)をエンドツーエンドで自律的に組み立てる強い能力があると評価しました。これはAnthropicによる評価であり、すべての実環境への攻撃が成功するという意味ではありません。
つまり今後は、限られた一部の専門家だけでなく、より広い範囲で高度なサイバー能力が利用される可能性があります。
それでも、試行回数と試行錯誤の速度が上がることは、防御側にとって大きな脅威です。
防御側も、AIで迎え撃つ時代へ
ここで気になるのが、「なら防御側も最強のAIで守ればいいのでは?」という発想です。
実際、この方向はすでに始まっています。
OpenAIはDaybreakを通じて、認可されたセキュリティ業務向けのアクセス制度を用意しています。Daybreak Blueは脆弱性の切り分けやコードレビューなどの防御業務向け、Daybreak Redは侵入テストなどより高度な認可済み作業向けで、どちらも利用には審査と承認が必要です。GPT-5.5-Cyberのようなサイバー専用モデルはRed側でしか使えず、GPT-5.6-Cyberにはさらにモデルごとの追加承認が求められます。
Anthropicも2026年4月にProject Glasswingを開始し、一般公開していない高性能モデル「Claude Mythos Preview」を限られた組織に提供して、重要ソフトウェアの脆弱性発見を支援してきました。さらに10月には、Glasswingで得た知見をもとに、対象となるオープンソースプロジェクトが申請して利用できる無償の脆弱性スキャン「OSS Scanner」も発表しています。
この流れを見ると、AIによる攻撃を、AIを含む防御で迎え撃つという構図は、すでに現実のものになっています。

イメージ画像(AI生成)。実際の攻撃や防御システムの画面ではありません。
100万回の攻撃に、100万回AIで返すわけではない
とはいえ、ここで誤解しやすい点があります。
AI攻撃が100万回飛んでくるなら、防御側も100万回ぶん最強モデルを回さないと勝てないのか。
答えは、そう単純ではありません。
実際の防御は、既知の攻撃や大量の不審通信を、まずファイアウォールやWAF、レート制限などの高速な仕組みでさばきます。そのうえで、未知の攻撃や複雑な挙動だけをAIが解析するのが現実的です。
要するに、防御の現実解は「全部をAIに任せる」ことではありません。
既存の高速な防御技術と、高度なAIを組み合わせる多層防御です。
この視点はかなり重要です。防御AIは魔法の盾ではなく、防御システム全体を賢くするための一部だと考えたほうが実態に近いでしょう。
※「100万回」は説明のためのたとえで、実際に観測された攻撃数ではありません。