歴史

100年間、博物館に眠っていた新種の恐竜!? 小さな化石が変えた恐竜の歴史

1924年に収蔵された頭骨の一部が、2026年になってヨーロッパ初のメガラプトル類として判明。CTによる再調査と恐竜の進化史、そしてティラノサウルスの小さな腕の謎を、スタークとゆなが楽しく解説します。

Stark
AI生成のイメージイラスト。羽毛と大きな湾曲した爪を持つ肉食恐竜の前で、原始人風の豹柄衣装を着た黒クマのスタークが石槍を構え、同じ衣装の銀髪のゆながあわてている。『100年越しの新種発見!?』の文字入り。恐竜の姿や色は想像で、原始人の演出もフィクション

約1億2,000万年前、現在のイギリスには鋭い爪を持つ肉食恐竜が暮らしていた。その存在が、2026年10月になって新たに報告された。

しかも手がかりは、発掘現場から届いたばかりの化石ではない。100年以上前から博物館に収蔵されていた、頭骨のほんの一部分だったのだ。

原始時代にタイムスリップ!?

※もちろん、原始人姿で恐竜と遭遇するのは冒頭の想像上の演出。実際に人類と非鳥類型恐竜が共存したわけではない。

イギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)などの研究チームが2026年10月14日、新しい肉食恐竜を報告した。名前はインヴィクティベラトリクス・アンベリナ(Invictibellatrix amberina)。[※1][※2]

ところが今回の「発見場所」は、地面の下ではなく、ロンドン自然史博物館の収蔵品の中だった。

1924年の化石が、なぜ今になって新種と分かった?

化石はイギリス南部のワイト島で採集され、1924年にロンドン自然史博物館へ収蔵された。2026年の研究発表まで、詳しい分類を明らかにする研究が十分に進んでいなかったという。[※2]

研究対象となったのは、標本番号NHMUK PV R6775。恐竜の全身骨格ではなく、脳を囲んでいた頭骨後部の骨(脳函/braincase)の一部だ。[※3]

研究チームはCTスキャンから骨の立体データと内部空間の形を調べ、脊髄につながる穴の形や、砂時計のような骨の隆起などの特徴を確認。さまざまな獣脚類との比較や進化系統の解析を行い、メガラプトル類に属する新属・新種と判断した。[※2]

目の前の骨は同じでも、分析技術と比較できる化石の情報が増えれば、100年前には分からなかったことが見えてくる。

1924年に博物館が化石を収蔵し、約100年後の2026年にCTスキャン・頭骨の比較・系統解析で新属・新種と報告されるまでの流れを示す模式図

図解①:1924年の収蔵から2026年の再調査までの模式図(Yuna Orbit制作)。化石・CT・引き出しの絵は説明用のイメージで、実際の標本写真やCT画像ではありません。

新種の恐竜、どんな姿をしていた?

インヴィクティベラトリクスが生きていたのは、約1億2,000万年前の白亜紀前期。研究者によると、近縁種から推定した体長は約3〜4m、高さは1.5mを少し超える程度と考えられる。[※2]

この恐竜が属する「メガラプトル類」は、比較的細長い頭と、発達した前脚、大きく湾曲した爪で知られる肉食恐竜のグループだ。今回の新種も、爪が約10〜20cmあり、体に羽毛が生えていた可能性が研究者から示されている。

ただし、ここは大切な注意点。今回見つかったのは頭骨の一部分だけで、爪も羽毛も実際には発見されていない。 体格や外見は近縁種に基づく復元・推定なのだ。

インヴィクティベラトリクスのホロタイプ標本(頭骨後部の脳函)を前・後ろ・右・左・下・上の6方向から撮影した実物の写真。各部の名称が英語の略号で示されている

実際に見つかった化石(実物の写真)。インヴィクティベラトリクスのホロタイプ標本 NHMUK PV R6775(脳函)をA〜Fの6方向から撮影したもの。出典:Morrison et al. (2026)「A new megaraptoran dinosaur from the Lower Cretaceous Wessex Formation, UK, and its implications for theropod evolution and biogeography」Royal Society Open Science(Wikimedia Commons、CC BY 4.0)。幅800pxに縮小し、WebP形式に変換しています(トリミングなどの加工はしていません)。

これは化石個体がメスだったという意味ではない。後の時代、南方で大型の頂点捕食者になったメガラプトル類をたたえる名前なのだ。[※2]

種小名の amberina には、化石が見つかった地層で知られる琥珀や女性名にちなんだ意味が込められている。

ティラノサウルスと何が違う? ……あの腕、使い道あるの?

肉食恐竜の代表といえば、やっぱりティラノサウルス。全長約12mにもなる大きな体を持ち、巨大な頭と強力な顎が捕食の武器だった。[※5]

それに対して、メガラプトル類は発達した前脚と湾曲した爪を使って獲物を捕まえたと考えられている。同じ肉食恐竜でも、目立つ武器の配置がずいぶん違う。[※2]

ティラノサウルスは強力な顎、メガラプトル類は発達した前脚と大きな湾曲した爪が武器であることを示す模式図。ティラノサウルスの前脚は約1mで指は2本

図解②:ティラノサウルスとメガラプトル類の「武器」の違い(Yuna Orbit制作の模式図)。体の形は特徴を説明するためのもので、大きさの比率は実寸ではありません。メガラプトル類の前脚と爪は近縁種からの復元推定で、今回の新種では見つかっていません。2つは別の時代の恐竜です。

腕で獲物を押さえた、交尾の際に使った、体を起こす補助にしたなど、いくつもの仮説がある。さらに2022年には、複数のティラノサウルスが死骸を食べる場面で、ほかの個体に腕を噛まれる危険を避けるために短くなったという仮説も発表された。[※5][※6][※7]

ただし、集団で食事していたことも腕が短くなった理由も、確定した事実ではない。

なお、ティラノサウルスと今回の新種は同時代に暮らしていたわけではない。ここでの比較は、別々の時代の肉食恐竜が持つ特徴の違いを説明するものだ。

ヨーロッパ初の証拠が、恐竜の進化史につながる

今回の発見が研究者にとって重要なのは、メガラプトル類がヨーロッパにも存在したことを示す初めての確かな化石証拠になった点だ。[※1][※2]

メガラプトル類はアジア、オーストラリア、南米などから知られていた。研究チームは、初期のグループが広い地域へ分布し、ヨーロッパを通って南方へ広がった可能性を分析で示している。

その後、白亜紀後期には北方で姿を消した一方、南方の陸地では巨大化し、頂点捕食者になった種類もいたと考えられる。

ただし、移動経路がすべて確定したわけではない。北方から姿を消した理由についても、気候・環境変化や競争相手の存在などが考えられるものの、まだ分かっていない。[※2]

次の新種も、博物館の引き出しに?

今回の研究が教えてくれるのは、新しい発見には、必ずしも新しい発掘が必要なわけではないということ。

何十年も前に採集された化石でも、新しい分析手法や蓄積された研究成果と組み合わせれば、見え方が変わる。博物館の収蔵庫は、まだ答えの出ていない謎の宝庫なのだ。

100年前には名前のなかった恐竜が、今になって歴史の表舞台へ現れた。次の大発見は地面の奥だけでなく、博物館の小さな引き出しの中にも眠っているのかもしれない。


参考資料・出典

※取材・確認基準日:2026年10月17日。本文の数値には推定値が含まれます。サムネイルはAI生成のイメージで、恐竜の外見や色は想像、原始人の姿もフィクションの演出です。図解①②はYuna Orbit制作の模式図です。