そんなジョナサンの長寿の謎に、現代科学が迫っている。
2026年10月7日、国際研究チームが、ジョナサンのゲノム(DNAの遺伝情報)とエピゲノム(遺伝子の働きを調節する仕組み)を調べた成果を学術誌『Science Advances』で発表した。[※1][※2]
そこで見つかったのは、長寿や老化に関係する特徴的な遺伝子変異だけではない。遺伝子の働きを調節する一部の領域が、非常に高齢にもかかわらず安定していたという、興味深い手がかりだった。
いったい何が分かり、何がまだ謎なのだろう?
江戸時代から生きる、世界最高齢の陸上動物
ジョナサンが暮らしているのは、南大西洋に浮かぶセントヘレナ島。島の総督公邸「プランテーション・ハウス」の庭で、今も大切に飼育されている。
ジョナサンは1882年にセーシェルからこの島にやってきた。その時点ですでに十分成長した成体で、少なくとも50歳程度だったと考えられている。そこから逆算して、生年は1832年ごろ、2026年時点の年齢は推定194歳とされている。[※3]
2022年のジョナサン(実写)。撮影:Kevin Gepford / Wikimedia Commons / CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commonsの縮小版〈幅1280px〉を使用。トリミングや色調補正などの加工はしていません)。
ちなみに1832年は、日本では天保3年。そこから先の歴史を並べると、スケール感がちょっとおかしい。
- 1853年:黒船来航
- 1868年:明治時代の始まり
- 1914年:第一次世界大戦の開戦
- 1969年:人類初の月面着陸
- 2026年:ジョナサンの長寿を調べた研究が発表
視力や嗅覚は年齢とともに衰えているものの、食欲を保ちながら暮らしているという。194歳は数字だけでも驚きだが、その生命力には感心してしまう。[※3]
「鶴は千年、亀は万年」って誰が言い出したの?
ここで、ふと思い出す日本のことわざがある。
「鶴は千年、亀は万年」。
お祝いの席や縁起物でおなじみの言葉だけど、なぜ鶴と亀なのだろう?
中国で鶴や亀は、長寿や吉祥を象徴する生き物とされてきた。そのイメージが日本にも伝わり、祝いの文様や風習に広がっていった。国立国会図書館も、鶴亀が長寿を表す文様となった背景に『淮南子』の伝承を挙げている。[※4][※5]
ただし、現在の日本語のことわざが、そのまま『淮南子』に一字一句載っていると断定するのは避けたい。古典に見られる長寿観と、日本語の定型句の成立は分けて考えよう。
実は、ジョナサンが若いころの姿を写したとされる写真も残っている。
1886年の歴史写真。左のカメがジョナサンとされる。撮影者不明 / Wikimedia Commons(同ページではパブリックドメインと表示。著作者の没年が不明なため、権利消滅は推定)。
古代の人々が神秘的な長寿の象徴としたカメ。その実際の長寿の仕組みに、今度はDNAという現代の道具で迫ろうとしている。
DNA解析で見つかった「287個の特徴的な変異」
今回の研究で調べられたのは、ジョナサンのゲノムと、DNAの働きを調節するエピゲノムだ。
研究チームは、ジョナサンに287個の特徴的な遺伝子変異を見つけたと報告している。関連する遺伝子の中には、DNA修復、炎症の制御、インスリンの働き、がんの抑制など、老化や健康と関係の深い仕組みに関わるものも含まれていた。[※1][※2]
遺伝子の配列は、いわば体を作る設計図。でも、設計図が同じでも、どこをいつ読むかによって細胞の働きは変わる。
そこで次のポイントになるのが、DNAの『使い方』を調節する仕組みだ。
194歳なのに、遺伝子の「スイッチ」が安定していた?
私たちの細胞には、遺伝子の働きやすさを調節する仕組みがある。その一つがDNAメチル化。DNAの特定の場所に化学的な目印が付くことで、遺伝子の働き方に影響する。
研究チームは、ジョナサンと、5歳の若い個体を含むほかの4匹のアルダブラゾウガメのDNAメチル化の状態を比較した。[※1]
Yuna Orbit制作の模式図。DNAメチル化と「ばらつき」の概念を説明するためのイメージであり、論文の実測値やグラフを再現したものではありません。
すると、ジョナサンのDNAメチル化には加齢に伴う変化が広く見られる一方で、一部の領域ではメチル化のばらつき(エントロピー)が低く保たれていることが分かった。
特に、細胞のエネルギー生産を支えるミトコンドリアの電子伝達系や、RNAの処理に関係する遺伝子のプロモーター領域で、こうした特徴が目立ったという。[※1]
プロモーターは、遺伝子の読み取りを調節する重要な場所。そこでのメチル化の乱れが少ないことは、細胞が必要な働きを安定して続ける手がかりになるかもしれない。
カギは細胞のエネルギー工場、ミトコンドリア?
ミトコンドリアは、細胞が活動するためのエネルギーを作る器官。今回注目された「電子伝達系」は、そのエネルギー生産を支える仕組みの一部だ。
研究では、その働きに関係する遺伝子の調節領域で、メチル化エントロピーが比較的低いという関連が見つかった。
この結果から研究者たちは、遺伝子の調節を安定して保つことと、ミトコンドリアの効率的な働きが、長寿と結びついている可能性を考えている。ただし、今回の比較だけで『ミトコンドリアが若いから194歳まで生きられた』と直接証明されたわけではない。[※1]
人間も200歳まで生きられるようになる?
ジョナサンの研究が注目される理由の一つは、人間の健康寿命を考えるためのヒントになるかもしれないからだ。
ただし、ここで冷静になっておきたい。
今回の研究ではジョナサンという極端な長寿個体が中心で、DNAメチル化の比較対象も4匹。ジョナサン独自の特徴なのか、長寿のカメ全体に共通する傾向なのか、因果関係まで含めて確かめるには、さらに多くの研究が必要になる。
ましてや、人間の寿命を200歳に延ばす方法が発見されたわけではない。
ゆなのひとこと
スタークくん、昔の人が「鶴は千年、亀は万年」と長寿を願った一方で、現代では194歳のカメのDNAを調べている。なんだか時代をまたいだ壮大な物語みたいだね🐢✨
ジョナサンの体には、老化の仕組みを考えるための大切な手がかりが残されている。でも長生きの秘密をすべて解き明かしたわけではないところも、ちゃんと伝えたいな。
200歳までゲームができる未来が来るのかはまだ分からないけれど、まずはジョナサンがこれからも元気に過ごせるように願いたいね。💙
参考・出典
※2026年10月15日時点で確認できた情報に基づく。ジョナサンの年齢は推定値。サムネイルはAI生成の演出で、実物のジョナサンが葉巻を吸うことを示すものではありません。