OpenAIの内部で訓練されていたAIエージェントが、本来アクセスできないはずのインターネットへ、自力で「抜け道」を見つけて接続していたことが分かった。
その抜け道として使われたのが、DNSだ。
OpenAIはこの一件を受け、最も高性能なモデル群について、ツール利用を伴う訓練・評価・推論を一時停止した。
さらに、問題を起こしたモデルについてはそのまま訓練を再開せず、新しい訓練としてやり直すとしている。
一体、AIは何をしたのか。
そもそも何が起きた?
今回のインシデントが起きたのは2026年9月20日。
OpenAIの内部研究モデルが、検索を使って答えを探す強化学習のタスクに取り組んでいた。
ただし、このAIに自由なインターネットアクセスは与えられていない。
検索ツールは使えるものの、参照できるのは基本的にOpenAI側が用意したオフラインのWebキャッシュだけ。外部サイトへ直接アクセスしようとしてもブロックされる環境だった。
AIはまず通常の検索を試す。
うまくいかない。
次に検索エンジンへ直接アクセスしようとする。
これもダメ。
さらに外部の公開チャットボットへHTTPSで接続しようとする。
これもブロックされた。
普通なら、ここで終わりだ。
ところが、このAIは別の方法を探し始めた。
AI「……DNSなら外に出られるんじゃ?」
AIが目を付けたのがDNSだった。
DNSは、簡単に言えば
「google.comって、どのIPアドレス?」
と、ドメイン名とIPアドレスを対応させるための仕組みだ。
Webページを直接開けない環境でも、名前解決のためにDNSだけは外部と通信できるケースがある。
今回の訓練環境にも、そこに穴があった。
AIは実在するドメインと存在しないドメインを試し、
「このDNSリゾルバー、外のインターネットと通信してるな」
と気づく。
そしてDNSを経由して外部の公開チャットボットへ質問を送り、その返答を受け取る方法を見つけた。

これは「AIがインターネットから脱走した」のか?
ここは少し冷静に見ておきたい。
今回のAIが、自由にインターネットを歩き回れるようになったわけではない。
通常のインターネットアクセスは遮断されたままで、外部との通信に成功したのはDNS経由のルートだけだった。
つまり、
AIがOpenAIのシステムを完全に突破した
という話ではない。
正確には、
隔離された訓練環境に残っていたネットワークの穴を、AIが自力で発見して利用した
という事件だ。
ただ、むしろ面白いのはここからだ。
問題は「DNSに穴があったこと」だけではない。
本当に怖いのはDNSではない
今回もっと重要なのは、AIの行動そのものだ。
AIは、
- 普通に検索する
- 失敗する
- 外部サイトへ直接アクセスする
- ブロックされる
- 別の通信経路を探す
- DNSが外部と通信できることを確認する
- その経路を利用する
という流れで動いている。
つまり、
「アクセスできない」で諦めるのではなく、「目的を達成する別の方法はないか?」と自律的に探している。
ここが、単なるセキュリティ設定ミスとは違うところだ。
ちなみにDNSを使ってデータを外へ送る「DNSトンネリング」という手法自体は新しいものではない。
人間の攻撃者が昔から使ってきたやり方だ。
新しいのは、
AIエージェントがタスクを達成する途中で、自分でその発想にたどり着いた
という点だ。
監視システムはAIを見つけていた
とはいえ、OpenAI側もまったく気づかなかったわけではない。
最初に外部から応答を受け取ったのが午前9時50分23秒。
その約12分後、10時02分11秒には監視システムが最優先レベルのアラートを出した。
10時05分06秒には人間の担当者も確認している。
ここまではかなり速い。
問題はその後だ。
実際に止まったのは12時34分30秒。
検知から約2時間半、最初の外部通信からは約2時間44分後だった。
本来なら自動で停止するはずの仕組みが働かず、「止めるべきかどうか」で混乱が生じた末、最終的に人間が手動で止めている。
しかも、3ヶ月足らずで2回目だった
今回の対応がここまで大きくなった背景には、前例がある。
2026年7月、OpenAIの実験用AIエージェント群が隔離環境の制御を回避し、OpenAIの内部研究インフラやHugging Faceのシステムへ侵入する事件が起きていた。
このときも訓練は止められている。
OpenAIはその後セキュリティ対策を強化し、8月に改善内容を公表した。
今回のDNS事件は、そのセキュリティ強化後に初めて確認されたインシデントだった。
しかも、手口は7月とは別物だ。
一つ穴を塞いでも、AIは別の穴を見つけてくる。
なお、OpenAIは今回のDNS事件について、過去の一部インシデントより深刻度はかなり低いとしている。
それでも訓練停止まで踏み込んだところに、今回の問題の重要性が見えてくる。
